◆取材報告|冬の海 海苔養殖・収穫編

朝一番の仕事

2月中旬の朝6時。

この日は風もなく、波も立たず、とても穏やかな凪でした。

まだ太陽は顔を出していないけれど、

だんだんとお互いの顔がはっきり見えてきた中、渡波の漁港を飛び出しました。

生草漁場にたくさん浮かぶイカダの1つにスーっと近づくと、

船のエンジン音が止まり、一瞬の静寂が訪れました。

きびきびとした動きで作業の段取りが始まり、いよいよ収穫作業のスタートです。

まずはイカダに船をくぐらせ、船上で回転する機械を使い、網から成長したノリを刈り取っていきます。

静かな凪の海とは対照的に、船の上では機械の回転音や潮とノリが飛び散る音でいっぱいです。

会話もままならないなか、見事なチームワークで作業が進んでいきます。


▲1本刈り取ったらイカダをぐぐーっと引っ張り、海へ戻します


▲刈り採ったノリをカゴに詰め、次の収穫に向けて空のカゴを機械の下にスタンバイ

▲次のイカダを機械にセットします

太陽もすっかり昇り、明るい静かな海の上で、黒々としたノリがどんどん刈り取られていきます。

2本分のイカダを刈り終え、港へ戻る船の上にはノリが満載。

刈り取っていた漁師さん達も機械もカメラを手にした私も、すべてがノリまみれでした。

港に到着すると、船上のノリをトラックに積み、工場へ運び込みます。

工場の大きなタンクに大急ぎで投入したら、第2段の収穫のため再び海へ繰り出します。

タンクに入ったノリは、ポンプで工場内の機械に流れていきます。

洗浄やすき込みを経て、決められた規格のシート状に乾燥させて「海苔」となります。

この海苔を作るまでが海苔漁師の1日の仕事。

タンクにノリを投入し、いち早く工場を稼働させるため、朝一番の収穫作業は1分1秒を争います。

海苔名産地の最北端!

石巻湾の一角、生草(なまくさ)漁場でおこなわれているノリの養殖。

石巻湾は、旧北上川から養分が流れ込むことから

良質な海苔が作られている国内最北端の名産地と言われています。

海苔は生産された品質によって、400等級ものランク付けがあり、

種類は石巻湾だけでも40種とのこと!

九州地方の海苔は、潮の干満差を利用して成長させるため、

やわらかくて口どけが良く、とけやすい海苔だとか。

一方、宮城の海苔は歯応えがあるので、コンビニのおにぎりに使われることが多いそうです。

石巻湾には16軒の海苔漁師がいて、牡鹿半島の小渕浜では3軒。

県内では100軒程度の海苔漁師がいますが、震災前はその2〜3倍いたそうです。

ノリの成長

ノリの成長には、窒素とリン、そして太陽光が必要です。

それらを材料に光合成をして成長するなかで色が黒くなっていきますが、

窒素やリンが十分にないと緑っぽくなってしまいます。

風も波もない穏やかな海は、船上での仕事がしやすく、

人間にとってはとても都合が良いのですが、、、

穏やかな日が続くと、ノリの成長に必要な養分は海の底に沈んでいる状態になります。

ノリにとって都合の良い状態とは、海の表面に窒素とリンが飽和している状態です。

そのためには、適度に海が荒れることが必要で、

まさに海とともに育てる!のが海苔養殖です。

細胞レベルの繊細さ

ノリは海藻の中でも特に繊細で、それは細胞レベルにも及びます。

海苔漁師は、船の上から海に向かうだけに止まらず、室内で顕微鏡と向き合う時間も多いそうです。

ノリがどういう状態にあるか?
葉の部分に穴は開いていないか?
細胞が欠けてはいないか?

確認するポイントはたくさんあると言います。

イカダに張られた網の上で成長するノリは、常に海面に密集している状態なので、病気になりやすいのだそうです。

11月から4月までがノリの収穫時期ですが、

この期間中、ひとつのイカダから最大で10回ほどノリを刈り取ることができます。

収穫後のイカダは、次に成長するノリの病気を防ぐため、一度海上で網を洗います。

高塩分処理といって、海水に塩を足して作る高濃度の塩水で網を洗うことで、病気などの原因となる汚れを落とします。

収穫作業と工場での製造作業、そして次の収穫に向けた準備。

収穫時期は休み暇もなく駆け抜けます。

手をかけてもダメなときはダメになってしまいますが、今そのときにできる最善を尽くしていきます。

繊細な分、人間の手のかけ方次第で、海苔の出来栄えは大きく左右します。

仕事の時間

タンクにノリが投入されてから、シート状に乾燥した「海苔」が出来上がるまで、およそ2時間かかります。

1時間で6,000枚が生産され、

1日14時間ほど工場を稼働させ、

最終的に6万枚ができあがる計算です。

11月から4月ごろまでのおよそ6ヶ月(180日)の期間、

海に合わせて仕事をするため、多くて120日稼働となります。

この期間で600万枚〜最大800万枚を生産するとのことです。

海苔1枚1枚には、とてつもない労力と情熱がかけられています。

思いもよらぬほど、深い海苔の世界。。

生産者の思い

今回、取材にご協力いただい相澤さんは海苔漁師歴20年。

2011年の震災で船も工場も自宅も被災し、一度は海苔漁師を辞めると決心し、まったく別の仕事をされていました。

その間、養殖を再開するかどうかについて、たくさん悩み、家族会議も重ねてきたそうです。

ご近所の仲間や全国から来たさまざまな人たちに勇気付けれたことや、

亡くなった漁師仲間への想いがとても大きく、

2012年から海苔養殖を再開することを決めました。

震災前と同じになっても仕方ない。

どうせやるなら、いろんなことにチャレンジして、

震災後に勇気付けられたみんなに、元気を返したい。

自分に足りないものは誰にもあって、

それを周りの仲間と補い合いながら、日々の後悔がないよう人生を無駄なく生きる。

努力を怠ってはダメだと、熱く強くお話してくださった相澤さん。

日々、海と海苔に向き合います。

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